数学の周辺 人工知能(AI)を日本の成長戦略に活用


 世界的に注目されているAI=人工知能を日本の成長戦略につなげていこうと、自民党は安倍総裁直属の本部を立ち上げ、初会合を開きました。

  「世界でも相当、この関係が進んでいるのは事実でありますし、わが国がそれに対しどう対応できるか、成長戦略の中でも大きな大きな部分だと思います」(自民党・塩谷立 本部長)

 安倍総裁直属の機関として発足した「人工知能未来社会経済戦略本部」の初会合では、政府からこれまでの取り組みについて説明を受けたほか、専門家から話を聞きました。

 政府では人工知能について経済産業省や文科省、総務省を中心に議論されていますが、出席議員からは「ほかの省庁も入れて、オールジャパン体制で取り組むべきだ」などの意見も出されたということです。

 今後、本部では自動運転や医療、農業などの分野で新たなルールつくりや規制緩和のあり方も検討する方針で、4月中に緊急的な提言をまとめることにしています。
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4月末に人工知能(AI)の実用化策提言、自民党戦略本部が初会合


自民党は29日、人工知能(AI)の実用化策を検討する「人工知能未来社会経済戦略本部」(本部長・塩谷立政調会長代行)の初会合を開き、4月末に政府への提言を取りまとめることを確認した。同本部は安倍晋三首相(党総裁)の直属機関で、医療や介護、農業など幅広い分野での活用策のほか、倫理的な課題についても議論する。

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「人工知能」

 囲碁の5番勝負で、人工知能が第一人者の韓国人名人に4番勝った。車の自動運転技術の完成も近い。人工知能が開く新しい時代がそこまで来ている。

  ▼囲碁は盤面が広く、将棋やチェスに比べはるかに複雑なため、今度の勝負結果に驚いた人は多い。背景には深層学習と呼ぶ膨大なデータを記憶、分析する技術の進歩があり、米グーグル社の英子会社が開発した。

  ▼かつて日本の囲碁ソフトは世界のトップだったが、今回はあっさり抜かれた。人工知能の研究自体が欧米に大きく水をあけられているらしい。10年から20年後には、日本で働く人の半数がコンピューターに取って代わられるというから、中年以下の年代にとっては深刻な問題だ。

  ▼来店者の画像から年齢、性別を自動的に認識し、在庫管理や販売データと組み合わせる技術は実用段階だ。人工知能による小説も出た。医療診断の技術も革命的に変化するし、ロボットは至る所に進出する。

  ▼西洋では産業革命で仕事の半分がなくなった。日本もかつて、人口の9割が農業に従事していたが、今はわずかに4%。労働環境は常に変化しているのだが、今回は急速だ。

  ▼若い人は、人間でなければできない仕事を見極めて、職業を選ぶしかない。女性の社会進出が活発な米国でも、IT業界では女性の技術者が圧倒的に不足していて、政府はその養成に力を入れる。日本でも「リケジョ」が新時代の有力な担い手になるだろう。

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「人工知能が勝つ方に賭けろ」 AI時代の就活入門


 世界トップクラスの囲碁棋士を破るなど、目覚ましい進化を続ける人工知能(AI)。自動運転や自動翻訳が当たり前になった時、私たちの働き方はどう変わるのか。東京大学の松尾豊・特任准教授(人工知能)に聞いた。

■一人ひとりが起業家に

 ――人工知能の普及によって、仕事のあり方はどう変化していくのしょうか。

 「自動車の運転のような単純作業や、パターン化しやすい会計処理などは人工知能に置き換わっていく可能性が高いです。過去の情報を分析し、類似した事例を見つけるような仕事、たとえばアナリストやパラリーガル(法律事務)なども同様でしょう。

 教育で言えば、どんな問題でミスが多いのかという分析は、ビッグデータに基づいて人工知能がおこなった方が効率がいい。学校の先生の役割は、生徒を励ましたり、わからないところを一緒に考えてあげたりすることになっていくはずです」

 「医療も一緒で、病気の診断は人工知能がおこなう。ただ、どんな治療法を選択するかについては、医師が患者さんと一緒に考えるしかない。手術をするのか、抗がん剤治療をするのかは、単に『生き残る確率は何%』というだけの話ではなく、価値観の問題ですから」

 「何が重要で、何が重要でないか。また、感情や本能に関することは、人間の領域として残されるでしょうね。人と接する仕事は、ますます重要になると思います」

 ――専門職以外のサラリーマンではいかがですか。

 「アシスタントではなく、コンサルタントの比重が高まっていきます。マネジャーと言い換えてもいいです。総合的な判断を行い、責任をとる。従来は経営者など組織の上の方の人たちが担ってきたことを、みんながやらないといけなくなります」

 「一人ひとりが、起業家や個人事業主のような働き方をするようになる。一つのスキルや知識だけで一生食べていくことはできません。絶えず学び続け、機会をとらえて事業化していくセンスが必要になってきます」

■自動翻訳で世界はガラリと変わる

 ――注目している人工知能の技術は。

 「10~15年以内に自動翻訳が実現される可能性があります」

 ――現在のネット翻訳はまだまだ精度が低い印象ですが、そんなに早く改善されるのでしょうか。

 「従来の人工知能は、英語と日本語の文字列を統計的に計算して変換していただけで、意味を理解していなかった。いま研究が進んでいるのは、言語から映像を生成し、その映像から別の言語に訳す技術。映像を介することで『意訳』が可能になるんです」

 「技術的には5~10年でできると踏んでいますが、実用化に要する時間も含めて『10~15年』と言っています。実現すれば、世界のどこでも学び、働けるようになります」

 ――時代を画するような大変革じゃないですか。

 「ビフォー自動翻訳とアフター自動翻訳とで、世界はガラリと変わりますよ。その頃には私もパリに住んでいるかも(笑)。ただ一方で、日本語という参入障壁がなくなり、世界中の人と闘わないいけなくなる。良い面と悪い面がありますね」

 ――松尾さんが人工知能の世界を志したきっかけは。

 「高校時代は理系で、物理や数学が好きでした。物理とか数学っていうのは、人間の認知がつくり出しているもの。そこから『人間の認知の仕組みって何なんだろう』と興味を持ちました。まさに『我思う、ゆえに我あり』の世界です」

 「元々、人工知能と認知科学は、非常に近い領域にあります。人間が世界を認識する仕組みを人工的につくりましょう、というのが人工知能なんです」

 「大学に進んで、まだ人工知能が完成していないと知り、『ラッキー』と思いました。すでにできあがっていたら、自分がやれることも限られる。できるだけ競合の少ない新しい領域を開拓しようと、早くからソーシャルネットワークやデータマイニング、ディープラーニングといった分野に取り組んできました」

■HPギリギリまで働き、経験値を稼ぐ

 ――仕事をするうえで大事にしていることは。

 「ドラクエとかのゲームだと、HP(ヒットポイント)がギリギリになってから宿屋に戻って体力を回復しますよね。だから私も、ギリギリまで仕事をしてから寝るようにしています。その方が効率がいいですし、でないともったいない感じがしてしまうんです」

 ――就活生はじめ、若い人たちにアドバイスをお願いします。

 「迷ったら、『人工知能が勝つ方に賭けろ』と言いたいですね。同じ業種で人工知能を活用している企業と、そうでない企業であれば、前者を選んだ方が勝つ可能性が高い」

 「あとは、ゲームと一緒で、若いうちはひたすら経験値を稼いでレベルを上げること。今後、人工知能による革命的な変化が起こってきます。これは若い人たちにとっては有利です。どんどん世界が変わってもいいように、いまのうちから自己投資をしておくことが大切です」

■東大生の「親ブロック」

 ――時代の変化に備え、変わることを恐れない。

 「そうです。ゲームだって、1面をクリアしたら2面に行きたいじゃないですか。変化があった方が楽しいですよ」

 「問題は親なんです。学生が起業してうまくいっているのに、親が『頼むから大手の○○商事に行ってくれ』と言う。人工知能の分野で有望な学生が、『親を悲しませたくないから』と有名な広告会社に就職する。お父さんお母さんからすれば、自分が生きている間は子どもが不幸な目に遭うところを見たくないんでしょう」

 ――「親ブロック」ですか。

 「ええ。東大生の親ブロックはすごいですよ。とはいえ、これは個々の価値観の問題ですから、私としても『親の言うことなんか聞かなくていい』とは言えません」

 「そこで考えたのですが、名前の通った大手企業が、起業を目指す若手に『名義貸し』をする制度はどうでしょう。3年の間、その会社の社員と名乗っていいことにするんです。給料は出さず、名前だけでも構わない。3年挑戦してダメなら、その会社に入社することも選べるようにする」

 「これなら親も安心です。企業側もそのベンチャーを買収するとか、選択肢が広がりますよね。起業がダメだった場合でも、経験を積んだ優秀な人材を雇えばいいじゃないですか」

 ――就活生の親に伝えておきたいことは。

 「子どもの幸せを願う親御さんの気持ちは、よくわかります。ただ、いまの時代に絶対安全ということはありません。冒険する方がよっぽど安泰かもしれない。ですから、親ブロックはほどほどに、ということですね」

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 まつお・ゆたか 1975年、香川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、2002年に同大学院博士課程修了。2014年より現職。専門は人工知能やウェブ、ビジネスモデル。人工知能学会の倫理委員長も務める。著書に『人工知能は人間を超えるか』など。


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