博士の愛した数式 (著)小川洋子    数学(整数論)専門の元大学教授



家政婦紹介組合から「私」が派遣された先は、80分しか記憶が持たない元数学者「博士」の家だった。こよなく数学を愛し、他に全く興味を示さない博士に、「私」は少なからず困惑する。ある日、「私」に10歳の息子がいることを知った博士は、幼い子供が独りぼっちで母親の帰りを待っていることを居たたまれなく思い、次の日からは息子を連れてくるようにと言う。次の日連れてきた「私」の息子の頭を撫でながら、博士は彼を「ルート」と名付け、その日から3人の日々は温かさに満ちたものに変わってゆく。さまざまなトラブルを乗り越えながら月日がたつうちに、博士の記憶時間は短くなり始めてしまい、ついに施設に入れられることになる。『私』とルートはその施設に通い続けるが、ルートが二十歳ぐらいのときに博士が死ぬことでこの話は終わる。
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博士
64歳。数学(整数論)専門の元大学教授。数学と子供と阪神タイガース(特に博士が事故に遭った当時、阪神の選手だった江夏豊投手、背番号は2番目に小さい完全数である28)をこよなく愛している。47歳のときに巻き込まれた交通事故により、新しい記憶が80分しか持続しないようになってしまった。大切なことを記したメモ用紙を体中につけている。書斎のクッキー缶の中に、野球カードや思い出の写真等をしまっている。人付き合いが苦手で、何を話して良いか分からなくなったとき、言葉のかわりに数字を持ち出すのが癖。特技は、文章や単語を逆さまから読むことと、一番星を見つけること。ニンジンと大根と卵かけご飯と酢豚が嫌い。
28歳。シングルマザーの家政婦。数学にしか興味を示さない博士に初めは困惑するが、博士の優しさやその数学への情熱に触れるうちに、博士に尊敬や親しみを抱くようになる。「私」の誕生日である2月20日(220)と、博士が大学時代に超越数論に関する論文で学長賞を獲った時に貰った腕時計の文字盤の裏の番号No.284(284)は、友愛数の関係にある。博士が投稿している数学の懸賞問題の雑誌『JOURNAL of MATHEMATICS』を、上手く発音する自信がないため、「ジャーナルオブ」と呼んでいる。
ルート
10歳の小学5年生。「私」の息子。頭が「ルートの記号」のように平らだったので、博士に「ルート」と呼ばれるようになる。阪神タイガースのファンで、博士に頼んでラジオを直して貰い、一緒にラジオ観戦をする。大人になったルートは中学校の数学の教師になる。
未亡人
72歳。博士の義姉(博士の兄の妻)。55歳のときに巻き込まれた交通事故のせいで足が悪い。
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「数学者」としてのあの頃の感覚が蘇る?!

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【書名】「解決!フェルマーの最終定理 現代数論の軌跡」加藤和也著、日本評論社
( フェルマーの大定理が解けた!―オイラーからワイルズの証明まで (ブルーバックス) 足立恒雄著 新書 )
( フェルマーの大定理―整数論の源流 (ちくま学芸文庫) 足立恒雄著 )
( フェルマーの最終定理 文庫 フェルマーの最終定理 (新潮文庫) サイモン シン(著), 青木 薫 (翻訳) )


1993年6月23日に、プリンストン大学のA.ワイルスが、フェルマーの最終定理の証明を宣言し、その後、証明の不備が見つかり、1年以上に苦考の末、1994年9月19日にその修正に成功したこの期間に、著者が証明の解説として数学セミナー読者向けに書いたものを集めたものである。厳密性はないが、極力丁寧に、正確に伝えようとする、著者の誠実さと、理解の深さが伝わってくる。原論文の 1. A. Wiles; Modular elliptic curves and Fermat's last theorem, 2. R. Taylor, A. Wiles; Ring theoretic properties of certain Heck algebras にも、整数論にも、非常に惹きつけられる内容だった。購入時にも読んだと思われるが、詳しく覚えていないところをみると、理解しようとはしていなかったのかもしれない。むろん、今回も十分な時間をかけて読んだとは言えないが。

以下は備忘録

「砂田利一『基本群とラプラシアン、幾何学における数論的方法』」(p.37)「ワイルス『ぼくは、フライとリベットの結果を知ったとき、風景が変化したことに気がついた。(中略)この時まで、フェルマの最終定理は、何千年間もそのまま決して解かれることがなく数学がほとんど注目することがない数論の他の[散発的かつ趣味的な]ある種の問題と同じようなものに見えていた。フライとリベットの結果によって、フェルマの最終定理は、数学が無視することのできない重要な問題の結果という形に変貌したのだ。(中略)ぼくにとって、そのことは、この問題がやがて解かれるであろうと言うことを意味していた』」(p.67)「清水英夫著『保型関数I, II, III』、志村五郎著『Introduction to the theory of automorophic functions』、Knapp『Elliptic curves』、河田敬義著『数論I, II, III』、藤崎源二郎・森田康夫・山本芳彦著『数論への出発』、上野謙爾著『代数幾何学入門』、J.H.シルヴァーマン・J.テイト著(足立恒雄〔ほか〕訳)『楕円曲線論入門』、土井公二/三宅敏恒著『保型形式と整数論』、肥田晴三著『Elementary theory of L-functions and Eisenstein series』、吉田敬之著『保型形式論: ─現代整数論講義─』、N.コブリンツ著(上田勝〔ほか〕訳)『楕円曲線と保型形式』」(p.123,4)「田口雄一郎さんの手紙に『Deligne さんの家はこの道の始まりのところ、森の入り口にあります。Deligne さんといへども、森羅万象の真理の最奥に至る道のほんの入口のところにゐるに過ぎないといふ、これは自然による卓抜な比喩であると思われます。ところが、恐ろしいことに彼の子供たちは毎日この道を通って森のむかうの学校に通ってゐるらしいのです。』とありました。フェルマーからの350年は大進歩でしたが、人類が続いてゆけば、それは今後何千年の数学の序曲であり、何段も何段も自然の深奥への新しい段階があることでしょう。」(p.239)「ガウス『どのように美しい天文学上の発見も、高等整数論が与える喜びには及ばない』ヒルベルト『数論には古くからの問題でありながら、今日も未解決のものが少なくない。その意味で、多くの神秘を蔵する分野であるが、他方、そこで展開される類体論のような、世にも美しい理論がある』」(p.245)「岩澤健吉『代数体と、有限体上の一変数関数体は、どこまでも似ていると信じてよい』」(p.246)「志村五郎は『整数論いたる所ゼータ関数あり』と述べたが今その言葉に『ゼータ関数のある所 岩澤理論あり』と続けて考えたい」(p.261)『ゼータ関数のある所 肥田理論あり』ともいえる。

「フェルマーの最終定理」を理解したい人(参考 書籍紹介)

N.コブリンツ著(上田勝〔ほか〕訳)『楕円曲線と保型形式』
土井公二/三宅敏恒著『保型形式と整数論』
志村五郎著『Introduction to the theory of automorophic functions』
J.H.シルヴァーマン・J.テイト著(足立恒雄〔ほか〕訳)『楕円曲線論入門』
Knapp『Elliptic curves』
河田敬義著『数論I, II, III』
藤崎源二郎・森田康夫・山本芳彦著『数論への出発』
上野謙爾著『代数幾何学入門』
肥田晴三著『Elementary theory of L-functions and Eisenstein series』
清水英夫著『保型関数I, II, III』
吉田敬之著『保型形式論: ─現代整数論講義─』
砂田利一著『基本群とラプラシアン、幾何学における数論的方法』

原論文の
 1. A. Wiles; Modular elliptic curves and Fermat's last theorem, 
 2. R. Taylor, A. Wiles; Ring theoretic properties of certain Heck algebras

<a href="https://www.amazon.co.jp/本-志村-五郎/s?rh=n%3A465392%2Cp_27%3A志村+五郎" target="_blank">志村五郎 書籍(日本語 一般向け)</a>
(一部、数学では、一般向けでないものもあるので注意を)

論文集 (志村五郎)
Collected Papers. I: 1954-1965 (Hardcover ed.). Springer. (2002). ISBN 978-0-387-95406-6.
Collected Papers. II: 1967-1977 (Hardcover ed.). Springer. (2002). ISBN 978-0-387-95416-5.
Collected Papers. III: 1978-1988 (Hardcover ed.). Springer. (2003). ISBN 978-0-387-95417-2.
Collected Papers. IV: 1989-2001 (Hardcover ed.). Springer. (2003). ISBN 978-0-387-95418-9.
など

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やや専門的内容
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/689.html

https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~abenori/conf/20150817.html

http://www.sci.kumamoto-u.ac.jp/~narita/ss2011_proceedings.pdf

http://ntw.sci.u-toyama.ac.jp/ss2017/

http://www.ist.aichi-pu.ac.jp/~tasaka/ss2018/index.html

https://core.ac.uk/download/pdf/42026066.pdf

ワイルズによるフェルマー予想の解決にも岩澤理論は大きな役割を果たした。 また、これ以外にも日本人数学者の結果が大きく寄与している。例えば、 肥田(晴三)の理論が有効に用いられたし、解決への道筋は谷山・志村予想を 経由するものであった。 
(世間では「谷山志村予想」だが、専門家の間では、「志村予想」である。)
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