天才数学者の頭の中は (志村五郎名誉教授 望月新一教授 など)
( 志村五郎名誉教授 スケッチ)
天才数学者の頭の中はどうなっていたのだろう。
5月6日の「産経抄」は、こう結ばれていた。「フェルマーの最終定理」の証明につながる重要な予想を提唱した数学者、志村五郎さんが先月初め、89歳で亡くなった。
志村さんが中国の古典文学や日本の政治思想など数学以外の分野にも関心を寄せ、多くの著作やエッセーを残したことは、産経抄で知った。不勉強を恥じるしかない。
◆「宇宙際」って何だ
今、世界中で最も「頭の中」に関心を持たれている数学者は、京都大学数理解析研究所の望月新一教授(50)だろう。2012(平成24)年に、数学の超難問である「abc予想」を解決したとする論文をインターネット上で発表した。
「宇宙際タイヒミューラー(IUT)理論」と題するその論文は、あまりにも独創的であるが故に、望月教授に近い少数の研究者以外は数学者といえども理解できず、「未来からきた論文」などと評される。
IUT理論と「abc予想」の証明が正しいか否かは、発表から7年近くになる現在も決着していないという。
そんな難解な理論を分かりたいという学究的野心は捨て、天才数学者の頭の中を漠然とのぞいてみたいと思う。
望月教授はメディアの取材をすべて断っている。手がかりは極めて少ない。望月教授のブログと、KADOKAWAから出版された一般向けの解説書「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃」(加藤文元著)を頼りにする。
まず、「宇宙際」という耳慣れない言葉から想像する。
国際社会や国際紛争が、複数の国家が接し、せめぎ合う状況で生じるように、宇宙際もいくつもの宇宙がせめぎ合う状況を指すのだろう。
IUT理論の宇宙は「数学一式」のことだという。望月教授は、単一の数学世界(宇宙)を脱し、いくつもの宇宙を創りだして超難問の解決に挑んだ。
◆たし算とかけ算
abc予想は、「a+b=c」(a、b、cは自然数)という最も初等的な数式について「たし算」と「かけ算」の関係を述べた予想だ。
たとえば、「3+5=8(2の3乗)」の場合は、たし算の結果である8と、3・5・8を素因数分解したうえで同じ素数の重複を避けてかけ合わせた結果(この場合は3×5×2=30)を比べる。
たいていの場合は「かけ算」の方が大きい数字になるが、希(まれ)に「たし算」の方が大きくなる場合(たとえば5+27=32)がある。このような例外は無限に存在するが、「かけ算」の方にいくらかの逆ハンディを与えれば、例外は無くなるか有限個にとどまるだろう、というのが「abc予想」である。
どうして強い方の「かけ算」に逆ハンディを与えるんだ、と思われるかもしれない。
数学や理論物理学では、例外を無くすことは重要なテーマなのだ。朝永振一郎博士のノーベル物理学賞(1965年)や広中平祐氏のフィールズ賞(70年)は、例外を解消する理論に対して贈られた。
IUT理論は、いくつもの宇宙(数学一式)が入り組んだ世界を創り出すことで、たし算とかけ算の関係をひもといた斬新な物語であるという。
◆欅坂に注ぐ熱量
望月教授のブログは更新頻度が低いなか、紅白歌合戦やテレビドラマに関する感想、論考が大きな比重を占めている。
とくに、欅坂46の「サイレントマジョリティー」とIUT理論を対応させた論考には、並々ならぬ熱量が注がれている。すべては理解できないが、アイドルグループの歌にも「宇宙」が見えるらしい。
また、ブログでは英語と欧米文化に対するあからさまな嫌悪(アレルギー体質)を、繰り返し表明している。
数学者の藤原正彦さんの英語・グローバル化教育に対する強い批判が思い浮かぶ。
5歳で渡米し、学校教育のほとんどを米国で受けた望月教授と、文学者の両親のもとで豊かな日本語教育を受けた藤原さんは、言葉に関しては育った環境が大きく異なる。
2人の数学者は違う立ち位置から、同じ方角を向いているのか。それとも、結論は似ているけど考え方は対立する関係にあるのか。判断しかねる。
天才数学者の頭の中は、分からないけど面白そうだ。
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京都大学 数理解析研究所
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京都大学 数理解析研究所
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5月6日の「産経抄」
数学者の藤原正彦さんは、大学院時代の指導教官から厳命されたそうだ。「フェルマーだけはやるな。数学人生終わりだよ」(『世にも美しい数学入門』ちくまプリマー新書)。
▼「(Xのn乗)+(Yのn乗)=(Zのn乗)でnが2より大きい自然数の解はない」。17世紀のフランスの法律家フェルマーは、「証明法をみつけた」とだけ本に書き残していた。この「フェルマーの最終定理」にどれほど多くの数学者が挑み、敗れ去ってきたことか。
▼360年後の1994年、米プリンストン大のアンドリュー・ワイルズ教授がようやく証明に成功する。そのカギとなったのが、「谷山・志村予想」と呼ばれる楕円(だえん)曲線に関する理論である。
▼谷山豊さんと志村五郎さんは、東大数学科で学術雑誌の貸し借りをきっかけに知り合った。谷山さんは31歳で謎の自殺を遂げる。当時プリンストン大に移っていた志村さんが、谷山さんの研究を引き継いだ。
▼藤原さんによれば、奇妙奇天烈で豪快だった谷山さんの理論を、志村さんが10年くらいかけて美しい姿に仕上げた。「谷山は正しい方向に間違えるという、特別な才能に恵まれていた」。親友を評する言葉は、なんとも味わい深い。フェルマーの定理の証明より、志村さんたちの予想の方が、数学への貢献は大きい、との見方さえあるそうだ。
▼志村さんは、中国の古典文学に関する研究書など、数学とは関係のない原稿も数多く残している。その一つが「丸山真男という人」と題したエッセーである。戦後の論壇に大きな影響力を持っていた政治学者に対して、歴史認識の誤りや教養の欠如を批判していた。今月3日、89歳で世を去った天才数学者の頭の中はどうなっていたのだろう。
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「志村五郎名誉教授の理論」と「望月新一教授の理論」を学習するための基礎書籍
以下
(個人的に、「平成30年間」に影響を受けた書籍(一部分))
参考
平成30年の「120冊」 個人的セレクト 数学書(数理科学関係 編)
平成30年間の31冊 個人的セレクト 数学書(数理科学関係 編) 洋書(英語版)
「令和」に伝えたい数学書籍 選 平成30年間の和書・書籍「120冊」(日本語)と洋書・書籍「31冊」(英語版)
参考
2013 1010頃
数学者が読んでいる本ってどんな本 小谷元子(編集) 東京書籍 森重文 (著), 上野健爾 (著), 足立恒雄 (著),砂田利一 (著), 黒川信重 (著),小谷元子 (著, 編集), 益川敏英 (著), 野崎昭弘 (著), & 5 その他 など
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参考
“ことしの本” 大賞に異例の数学解説書 「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃」
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